2026年2月17日、当社主催の「LINEヤフー Development with Agents Meetup #1」を紀尾井町オフィスとオンラインの同 時開催で実施しました。会場参加は定員100名で満席、オンライン参加は500名を超え、多くの方にご参加いただきました。約7,000名のエンジニア(*1)を抱える当社がAI駆動開発をどう進めているのか、6名の登壇者が6つのセッションでお伝えしました。
コーディングAIの導入で個々の実装速度が向上する一方、組織全体では新たなボトルネックが生まれることもあります。部分的に速くなっても全体が速くならない。この問題にどう向き合っているのか、各セッションの内容をご紹介します。
LINEヤフーにおけるAI駆動開発組織のプロデュース施策
イベント冒頭では、筆者の山岡がAI駆動開発の組織展開施策を紹介しました。
Orchestration Development Workshop(社内ワークショップ名)は、各現場メンバーが得た知見を社内で共有・展開する仕組みです。運営体制としては、DevRel Unit・Guild Members・Technical Directorsの3レイヤーが連携し、知見の質と再現性を保ちながら展開していく考え方が紹介されました。ZoomとSlackを使ったリアルタイム実演のハンズオン形式をとり、Technical Directorがレビューして品質を担保します。多くのエンジニアが自分のプロジェクトでオーケストレーションを実践できる状態 を目指し、トップダウンではなく現場主導で体験の場をつくっています。こうした仕組みを、私たちは「ギルド」と呼んでいます。
ギルドの設計思想やワークショップの運営については「AI活用の鍵は「組織的な学び」にある:LINEヤフーのOrchestration Development Workshop始動」も併せてご覧ください。
AIは書くより読むことでレビュー渋滞を緩和する
ローカル・UGC SBU Division Lead 福山怜史さんからは、レビュー依頼が特定メンバーに集中しPRが積み上がるという構造的な問題に対し、AIスクリーニングレビューという手法が紹介されました。
福山さんによると、本手法は一次確認をAIが担い、最終判断を人が行う二段階方式です。変更内容の要約、コーディングスタイルの確認、バグやセキュリティ観点の懸念点の洗い出しまでを自動化し、Bug/Proposal/Questionなどのプレフィックスとブロッキング分類を付与することで、レビュアーと実装者の認識のずれや感情的な摩擦の軽減にもつながっているといいます。また、社内ワークショップ(第1回)後には、AI活用率が45%から68.5%へ、継続的活用層が15%から27.6%へ増加し、未活用層は28%から12.2%へ低下したことも共有されました。経験の浅いメンバーがAIの観点を参考にレビューに参加できるようになったことが大きな変化であり、AIはコードを書く道具から、レビューのノイズを振り分けるフィルターへと役割を変えつつあると語られました。
プロンプト設計やワークショップの成果の詳細は「AIで"レビュー渋滞"を解消する 〜PRレビュー支援と社内ワークショップでレビュー文化を変えた実践記録〜」をご覧ください。
補助ツールから自律的なチームメンバーへ
メディア管掌SBU バーティカルSBU 平野敬祐さんからは、既存の開発フローを崩さずにAIを組み込む3つのステップの戦略が紹介されました。
エージェンティックコーディングへの移行により、人間がゴールを渡したうえで、AIが仕様整理から実装・テスト・修正までを一貫して支援できるようになります。導入のポイントは既存フローをいきなり変えないことで、実装とレビューの一部に絞り込み、すぐ試せることを最優先にしています。
社内アンケートから「使い方がわからない → 調べる時間がない → 使えない」という悪循環が浮かび上がったため、2,000名規模のワークショップで実案件に近いタスクをAIに委ねてみる成功体験を確実につくり、ワークショップで使ったプロンプトをスラッシュコマンドとして配布しました。この体験が悪循環を断ち切り、AIを一人前のエンジニアとして扱う文化を社内に広げていくと平野さんは語りました。
3つのステップの具体的な実装とワークショップの設計は「CopilotからPilotへ:Agentic Codingで実装〜PRを自動化」で詳しく解説しています。
組織の集合知を引き出すマルチエージェント戦略
サービスインフラCBU Cloud Nativeユニット 井上秀一さんからは、GoogleのOSSフレームワークであるADK(Agent Development Kit)を活用し、プロンプトやエージェントを組織の資産として横展開する戦略が紹介されました。
ローカルツールは個人の生産性を高める一方で、使いこなせる人との間で差が広がりやすいという課題もあると井上さんは指摘しました。ADKはマルチエージェントシステムをWeb UIやAPIサーバーとして展開でき、MCPを通じてJiraやConfluence、社内APIと連携しやすいとのことです。一人が構築したワークフローをチーム全体がAPI経由で即座に利用できる点が特徴で、組織横断的な展開が可能になると説明されました。
社内ワークショップ(第2回)では、Jiraと連携してInProgress分析・TODO分析・レポート生成・翻訳の4つのエージェントが連携するプロジェクトトラッカーを2,000名がリアルタイムで体験しました。個人開発にはローカルツール、組織のナレッジ活用にはADKと、組み合わせて使うのが現実的だと語られました。
ADKの技術的な詳細やプロジェクトトラッカーの構築手順は「Agent Development Kit(ADK)を使ってSingle/Multi-Agent開発と社内への統合」をご覧ください。
AIに視覚を与えるとUIテストが変わる
ローカル・UGC SBU 山手政実さんからは、MCPサーバー経由でシミュレーターを操作させAIに視覚を与えた実践が紹介されました。
AIはコードを読める一方で画面の状態を自ら確認できないため、AIと人間の目線を揃えることが課題であると山手さんは述べました。MCPサーバーとClaude.mdで前提を整えるだけでは(比喩的に)7〜8割にとどまり、残りの2割を埋めるのが視覚情報であると説明しました。
実践事例としては、(1)iOS Simulator MCPによるスクリーンショット自動取得と改善ループ、(2)Xcode MCPによるコンポーネント単位の画像取得、(3)Maestro MCPによる自律的なE2Eテストフローの組み立て、(4)独自開発のSnap Drive MCPによるスナップショットテストが紹介されました。
視覚情報をAIに与えることで、人間はテストコードを書く作業から離れ、結果の妥当性を判断する役割に回れるようになるといいます。また、プロンプトの調整よりも環境設計が鍵になるとの見解が示されました。
MCPサーバーの安全な利活用と社内展開については「MCPサーバーの安全な利活用を社内に広める:MCPサーバー連携による開発効率化の実践講座」で詳しく紹介しています。
巨大なコードベースはコンテキスト設計で手懐ける
LINEアプリ開発SBU モバイルデベロッパーエクスペリエンスチーム 三木康暉(giginet)さんからは、200万行・3万ファイル・数百モジュールという巨大なLINEアプリのリポジトリでAIを活用するためのコンテキスト設計が紹介されました。
Claude.md(メモリーファイル)の設計思想は、「コンテキストは公共の財産であり浪費してはならない」という点にあると三木さんは説明しました。そのため内容は約150行に絞り、AIがすでに知る一般知識は省き、プロジェクト固有の設定やスキル、サブエージェントへのポインターのみを記載しているとのことです。また、フルビルドの実行を避けるよう注意喚起する文言(「絶対にフルビルドするな」)も明記し、部分ビルドなどのスキルと組み合わせて運用していると紹介されました。
エージェントスキルはパッシブ(知識付与)とアクティブ(サブエージェント起動)に分け、ログはサブエージェントに隔離して結果のみをメインエージェントに返す構成です。大規模開発でAIにすべてを教え込もうとすると逆効果になりうるため、情報を削ぎ落とす設計が鍵になりうると三木さんは述べました。
三木さんはワークショップ講師としてRAG(Retrieval-Augmented Generation)システム構築も手がけています。「ベクターデータベースとAgent SkillsでRAGシステムを作ろう! - 全開発者向けワークショップ開催レポート」も併せてご覧ください。
イベント全体を通じて見えた共通の流れ
6つのセッションに共通していたのは、AI駆動開発が単なる効率化にとどまらず、組織のあり方にも影響しうるという点でした。アプローチは異なっても、共通していたのは「まず試せる形にすること」「成功体験をつくること」「体験を通じて広げること」への強いこだわりです。Development with Agents Meetupは、こうした実践知を社内外に共有する場として、今後も継続的に開催します。ぜひ今後の取り組みにもご期待ください。
(*1)当社に関わる業務委託メンバーを含む人数です


