LINEヤフーの技術カンファレンス「Tech-Verse 2026」の公式記事です。
こんにちは。AIエージェントで分析を「ひとつなぎ」にするプロジェクト「PJ One Piece」のプロダクトマネージャーの橋本とプロダクトオーナーの岡田です。
PJ One Pieceは、生成AIを活用して、事業の問いからデータ分析、示唆の整理、次のアクション検討までをつなぐ分析AIエージェントの取り組みです。先行展開では、従来は依頼から結果が返るまで平均で約2週間かかっていた分析が、約10分で実行できるようになり、事業部内では月数百回規模の分析が行われるようになりました。
この記事では、生成AIを使って、事業とデータ、分析プロセス、ドメイン間の分断をどのように「ひとつなぎ」にしようとしているのか、そしてその中でデータサイエンティストの役割がどのように変わりつつあるのかをご紹介します。
背景にあった3つの分断
PJ One Pieceの出発点には、分析業務における3つの分断がありました。
- 事業とデータの分断
- 分析プロセスの分断
- ドメインの分断
つまり、事業の問いがデータに届かない、分析プロセスの途中で本来のゴールを見失い思わぬ方向に走ってしまう、ドメインごとの知見の再利用が困難、などの問題です。これら3つの分断の個々の深刻度合いは事業によってさまざまですが、それぞれが影響し合って、その事業におけるデータ活用のスピードと品質が決まっていると捉えることができます。
まず、「事業とデータの分断」です。DWHやBIが整備され、データはアクセスできる状態になったとしても、事業現場が必要なタイミングで必要な粒度の情報をデータから自力で得るには、まだ高いハードルがありました。SQLを書けるか、どのテーブル・列を使えばよいか、どの指標・定義で見るべきか、さまざまな変動の中から意味のある情報をどのように見つけるか、得られた数値をどう解釈して活用すればよいか。こうした判断が必要になるため、データ基盤を用意したとしても、データ活用のラストワンマイルが残ります。
次に、「分析プロセスの分断」です。これは、課題定義、分析設計、分析実行、レビュー、アクションまでの流れが、担当者やツール、実施タイミングが異なることで分断され、文脈が途切れやすい状態を指しています。依頼者の事業背景や意思決定の目的を明文化しきれず、あるいは分析設計の意図が実行やレビュー時に引き継がれないことで、認識のずれや手戻りが発生します。さらに工程の切れ目で待ち時間が生じ、実作業以上にリードタイムが伸びます。結果として、分析品質がばらつき、示唆がアクションにつながるまでのスピードが落ちる、という課題が発生していました。
最後に、「ドメインの分断」です。事業ドメインが変 わると分析担当者が変わり、サービスの前提、KPIの定義、見るべき比較軸、テーブル構造、施策やユーザー行動の文脈も変わります。そのため、あるドメインで優れた分析技術や分析パターンが生まれても、ドメインに閉じた再利用になりがちで、別ドメインでの活用は限定的でした。施策評価、ファネル分析、ユーザー理解、要因分析、効果測定など、似た構造を持つ分析は多くあります。それでも、ドメインごとの背景知識、テーブル契約、過去の判断理由、レビュー観点、結果から得た学びが個別に閉じると、分析資産は横断的に展開されにくくなります。
PJ One Pieceでは、AIがある前提で業務・知識・データ・人の役割・組織構造を再設計し、この3つの分断を「ひとつなぎ」にすることを目指しました。中核に置いているのが、自律的に分析を行うAIエージェント、分析エージェントです。
分析エージェントで分析を「ひとつなぎ」にする
ここでいう分析エージェントは、データサイエンティストが普段行っている「問いを整理する」「必要なデータを探す」「集計・分析する」「結果を読み解く」「次のアクションにつなげる」という流れを、社内システムを活用しつつ進める仕組みです。ユーザーはチャット画面などの入口から自然言語で依頼し、エージェントが目的を解釈して分析計画を立て、ツールを駆使して情報を 集めつつ、結果をまとめます。
この分析エージェントで目指す「ひとつなぎ」とは、データ分析を取り巻く一連の活動や資産をつなぐということです。これは、背景にあった3つの分断に対応しています。
1つ目は、事業とデータをつなぐことです。事業担当者がデータサイエンティストに依頼して結果を待つだけでなく、自ら問いを立てて分析を行い、次の打ち手を考えるところまで進められる状態を目指します。たとえば「先週のキャンペーンは売上に効いたのか、次にどの導線を改善すべきか」と自然言語で聞くだけで、SQLやテーブル情報などの複雑な技術・仕組みを意識せずに分析を始められるようにします。
2つ目は、分析プロセスをつなぐことです。エージェントはSQLや集計結果のような部分的な結果を返すのではなく、ユーザーの目的や過程の文脈を保持したまま、意思決定に必要な論点を整理し、キャンペーン対象や比較期間を確認し、集計や専門分析を行い、結果を解釈し、可視化やレポートとしてまとめ、ユーザーの目的の解決を目指します。必要なら追加分析も提案し、ユーザーが次のアクションを考えられるところまで伴走します。
3つ目は、ドメイン間をつなぐことです。分析エージェントという形で分析を形式知化することで、分析知見そのものが再利用可能、かつ継続的に改善していけるものになります。問いの整理、要件定義、指標や比較軸の選び方、レビュー観点、追加分析の判断といった過程はログとして残り、どこで前提不足や手戻りが起きやすいかを把握し、分析プロセスの改善につなげられます。頻出する分析プロセスはSkillとして一般化し、別担当者や別ドメインでも再利用できるようにします。
これらを支える全体構成は、大きく5つのコンポーネントに整理できます。
- ユーザーとの接点になるアプリ
- ユーザーの目的を達成するために、推論やツール利用を行うLLMベースのエージェント
- SQL実行、Python実行、社内ドキュメント調査、可視化などを担うツール
- ドメイン知識、Skill、テーブル情報などを提供する知識
- 分析エージェント全体のログ、ユーザーフィードバック、モニタリング、評価を担う計測
知識部分はプロダクトドメインごとに追加できるプラグイン構造にしており、実行ログやフィードバックも改善に活かすことで、使われるほど知識や分析パターンが蓄積される構成にしています。つまり、PJ One Pieceの分析エージェントは単体のLLMチャットアプリではなく、アプリ、エージェント、ツール、知識、計測を組み合わせた分析実行基盤として設計しています。
分析を「ひとつなぎ」にするための設計と技術
この3つのつながりを実現するには、分析をただ自動化するだけでは足りません。データ分析を取り巻く一連の活動や資産を1つのシステムとして設計する必要があります。実装や運用を進める中で見えてきた技術的課題を、ここでは4つに整理して紹介します。