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エンジニア以外にもCoding Agent活用を広げる架け橋に ─ 個人開発から始まった、Codex×Electron製GUIエージェント誕生秘話インタビュー

Coding Agentと業務ツールを連携した業務改善は、開発現場では当たり前になりつつあります。しかし、その恩恵は本当に組織全体に広がっているでしょうか。

「一度触ればすごさはすぐ伝わる。ただ、その一歩目に壁がある」

その壁を越えるために生まれたのが、個人開発ツール「LY MCP Agent」です。開発を手がけた板井俊樹に、設計思想と実践の過程を聞きました。

板井 俊樹
2023年春に新卒入社。横断組織にてフロントエンド開発リードを担当や、フロントエンド開発に関するイベントの運営などを担当。

はじめに:LY MCP Agentとは何か?

LY MCP Agent トップ画面

─「LY MCP Agent」について教えてください

板井:
一言で言えば、「どんな人でもMCP Server×Coding Agentの便利さをすぐに体験できるツール」です。

社内ではさまざまな業務ツールが、MCP Serverを通じて利用できるようになってきています。しかし実態としては、設定や社内ルールの複雑さが壁となり、活用が広がりきっていませんでした。

LY MCP Agentは、その壁を取り除くことに注力したツールです。

課題:広がらないMCP Server活用

─「LY MCP Agent」が生まれた背景には、どんな課題があったのでしょうか?

板井:
業務ツールとCoding Agentの組み合わせは強力です。しかし実際に導入しようとすると、2つの壁にぶつかります。

1つ目は、導入の複雑さです。
社内でAIを利用するためのPAT(Personal Access Token)の発行、MCP Serverの接続設定、推奨構成の確認・構築、社内ルールのチェックなど、「何が正解なのか」を自分で調べなければなりません。ここで止まってしまう人が多かったと思います。

さらに、Coding Agent×MCP Serverの利用はCLIやCode Editorを前提としており(2026年1月当時)、設定ファイルの正しい記述も求められます。何をどう準備すれば動くのか全体像が見えず、エンジニア以外には手探りで進めるしかない状態でした。

2つ目は、活用イメージが湧かないことです。
導入がエンジニア前提だったため、それ以外の職種には触れる機会すらありませんでした。そのため、何ができるのかそもそも知られておらず、試す動機も生まれにくい状態でした。

仕組みはあるのに使える人が限られ、活用イメージも湧かない。この状態こそが、社内普及の最大のボトルネックでした。それが「LY MCP Agent」の出発点です。

著者板井の近影

きっかけ:Coding Agentを全職種へ届けたいという想い

─なぜLY MCP Agentを作ろうと思ったのですか?

板井:
Coding Agentを使い込むうちに、用途が実装以外にも広がっていきました。社内ドキュメントの横断検索・更新、チケット管理、デザインデータの参照、社内チャットからの情報収集など、幅広い業務に効く感触がありました。こうした経験を通じて、業務ツール連携はむしろエンジニア以外の業務にこそ効いてくると考えるようになりました。

実際、Coding Agentが民主化されれば、エンジニア以外でも自然言語で業務スクリプト(Skill)を作成・実行し、自分の業務を自分で自動化できるようになります。さらにMCP Serverを通じて業務ツールとつながれば、APIの知識がなくても社内の情報やサービスを直接操作できるようになります。これを一刻も早く、全職種が使える形にしなければならないと感じました。

解決策:2つのアプローチ

─どんなアプローチで課題を解決したのでしょうか?

板井:
大きく2つあります。1つ目は、誰でも直感的に使えるGUIの提供です。
エンジニアにしか関係のない機能は省き、何をすべきか迷わないシンプルな画面設計にしました。裏側でCoding Agentが動いていることを意識させない操作感も重視しています。さらに、インストールから利用開始まで一度もターミナルを触らない導入フローを整え、導入のハードルも解消しました。

2つ目は、プリセット化です。
設定や規約確認をユーザーに背負わせない。この方針のもと、社内の推奨設定と安全なMCP Serverをあらかじめ組み込みました。設定ファイルを一切書かずに、インストール後すぐに安心して使い始められます。

「わかる人だけが使える」から「誰でもすぐに活用できる」へ変えることが狙いでした。

LY MCP Agent 設定画面

実装方法:技術スタックと設計

─具体的にどのように実装したのでしょうか?

板井:
ベースとなるCoding Agent(Codex CLI)をElectronでバンドルし、デスクトップアプリとして配布する構成にしました。ローカルでCodexをサーバーとして動かし、GUIから通信する仕組みです。技術スタックとしては、Codex CLI、Electron、Hono、AI SDK、Assistant UIを組み合わせています。

基本機能はAgentic Codingで2日で作り上げました。個人開発なので、まずは動くものを素早く出して、フィードバックを受けながら改善していくスタイルで進めています。

GUI設計では、PAT設定画面から発行ページへの導線や、MCP Serverの有効化をトグル一つで完結させるなど、利用開始までのフローを迷わず進められることを意識しました。Skill作成のほか、System Promptの編集、作業ディレクトリの切り替え、自動アップデート、多言語対応など、利用者が最低限必要とする機能をシンプルな画面に収めています。

Skillの作成は自然言語で対話的に行えるため、非エンジニアでも自分の業務に合わせた自動化を組み立てることができます。エンジニア向けの詳細設定は別レイヤーに分離し、通常利用の画面を複雑にしない設計にしました。

成果:何がどれだけ変わったか

─導入によってどのような成果がありましたか?

板井:
リリースから4か月で3,000人を超える社員に利用されています。特にエンジニア以外の利用が中心で、MCP Serverをこのツールで初めて触ったという人が大半でした。

活用事例も職種を越えて広がっています。
デザイナーはLY MCP Agentを通じてFigmaとConfluenceの仕様突合やDesign QAを自動化し、企画職はConfluenceの横断調査に活用し、データサイエンティストはドメイン知識の整理に使っています。プロジェクト管理担当はSlackとJIRAを連携させたチケット管理の効率化に向けたプロンプト集を整備し、エンジニアも案件用のConfluenceとJIRAチケットの一括作成や、テスト仕様書の自動生成に使っています。

また、LY MCP Agentを最初の入り口として、エンジニアがチーム向けのSkillを整備し、非エンジニアにまずここから触ってもらうという使われ方が各チームで広がっています。一度体験したユーザーが自らSkillを作るようになるなど、ツールを起点にした活用の循環が生まれ始めました。

多言語対応をしているため、日本だけでなく台湾や韓国でも独自に紹介記事や勉強会が行われ、各拠点でSkillの共有も行われています。Slackのヘルプチャンネルには900人を超えるメンバーが参加し、ユーザー同士で日々質問や回答が交わされています。

これから:Coding Agentが当たり前になる時代へ

─LY MCP Agentの今後について教えてください。

板井:
LY MCP Agentは、Coding Agentへの最初の一歩を踏み出すためのツールです。

Codex AppやClaude Coworkなど、より高機能なCoding AgentのGUIツールもすでに登場し始めています。LY MCP Agentというシンプルな入り口でCoding Agentに慣れてもらい、早くこうしたツールへステップアップしてもらえるよう、LY MCP Agentはその橋渡しを続けていきます。

エンジニアへのメッセージ:AI革命を組織に届ける橋渡し

─この記事を読んだ方へ伝えたいことは何ですか?

板井:
いまAIの世界では、日々革命的な変化が起きています。技術もツールも次々と変わり、できることが急速に広がっている。しかし、全員がそれをキャッチアップし続けるのは現実的ではありません。

OpenAIやAnthropicなどによって、エンジニア以外にもCoding Agentを使ってもらう流れは世界的に広がっています。ただ、ツールを提供するだけでは使ってもらえません。エンジニアが最新の情報をキャッチアップし、設定を整え、エンジニア以外でも使いやすいインターフェースにして届ける。この「橋渡し」が必要です。

現場の業務を丁寧にヒアリングし、すぐに使える設定として形にする。実際に使ってもらい、「自分の作業がAIで自動化できた」という成功体験を積んでもらう。一度その実感を持ってもらえれば、あとは自発的に活用していくようになります。

AI革命の恩恵は、触れた人にしか届きません。エンジニアには、その恩恵を組織全体に届ける橋渡し役を担ってほしいと思います。

著者板井の近影