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カスタマージャーニー分析による認証済OA数増加のための施策提案(インターンレポート)

はじめに

こんにちは。滋賀大学データサイエンス研究科博士前期課程1年の林孝彦です。大学および大学院では、データサイエンスに関する幅広い技術を体系的に学び、統計学や機械学習、データ解析を通じて実社会の課題解決に取り組んできました。現在は企業との共同研究として、機械学習を用いたクーポン配布戦略の提案およびその効果検証に従事しています。このたび、2025年10月6日から10月31日までの4週間、LINEヤフー株式会社の広告SBUサイエンスSBU分析ユニット分析3ディビジョンOAディビジョンにてインターンシップに参加いたしました。インターン期間中は、「LINE公式アカウントにおける認証済アカウント数増加のための施策検討」をテーマに、データ分析を中心とした課題解決に取り組みました。この記事では、インターン中に私が行った活動内容の詳細と実際にインターンに参加して感じたことを紹介します。

背景

「LINE公式アカウント」(以下、OA)は、企業や店舗がLINEアプリ上でお客様(友だち)と直接つながり、情報発信やコミュニケーションを行うことができるビジネス向けサービスです。メッセージ配信、チャット機能、ショップカードなど、集客から販促、リピーター育成までを一貫して支援する多様な機能を備えています。日本国内におけるLINEの利用者数は約9,900万人に上り、約80%のユーザーがOAからのメッセージを当日中に開封するといわれています。また、ユーザーが「よく行くお店の情報源」として多く利用しているのがLINEであるという調査結果もあり、OAはその高いリーチ力と即時性が特徴です。

公式アカウントのLP画面

OAには「未認証アカウント」と「認証済アカウント」、「プレミアムアカウント」の3種類が存在します。認証済アカウント(以下、認証済OA)は、当社所定の審査を通過したOAであり、アカウントバッジが付与され、LINEアプリ内での検索結果にも表示されるようになります。さらに、一部の機能や決済手段が拡張されます。認証済OAとなることで、OAオーナー(アカウント運営者)は限定機能の利用や信頼性の向上といったメリットを得ることができ、エンドユーザーにとっても安心してコミュニケーションを取れる存在となります。

認証済OAを増やすことは、LINEというプラットフォーム全体の信頼性および健全性の向上につながる重要な取り組みです。しかし現状、認証申請に至らないOAも多く、その要因を明らかにする必要があります。これまでの分析から、認証済OA数を増加させるためには、「認証妥当な未認証アカウント」からの認証申請率および認証通過率を高める必要があることが明らかになっています。ここでいう認証妥当なアカウントとは、OAの規約や業種区分の観点から、認証申請を行うことで認証済OAになることができるOAを指します。現時点で認証妥当なアカウントにおける認証申請率は約37%にとどまっており、改善の余地が大きいと考えられています。

認証済OAのKPIツリー
認証済OAのKPIツリー(2025年6月)

課題

理想としては、認証妥当なすべてのアカウントが認証申請を行い、適切な審査を経て認証済OAとなることが望まれます。すなわち、認証妥当なアカウントの認証申請率は100%であることが理想です。しかし、現状の認証申請率は約37%にとどまっており、大きなギャップが存在しています。このギャップを解消するためには、まずOAオーナーがどのような経路で認証申請を行っているのか、また認証申請のうちどのステップで離脱が発生しているのかを正確に把握する必要があります。ところが、現時点ではそれらに関する体系的な知見が不足しており、そうした知見を活かした改善策を積極的には実施できていませんでした。

目的

これらの背景や課題を踏まえて、本インターンシップでの取り組み目的は、OAの開設から申請、承認に至るまでのプロセスを分析し、その結果をもとに認証申請数の増加につながる示唆や具体的な施策を提案することです。特に、OAオーナーの行動を「カスタマージャーニー」として可視化することで、どの段階で離脱が発生しているのか、またその要因が何に起因しているのかを明らかにすることを目指しました。これにより、認証申請率を高めるための効果的なアプローチを検討し、今後の施策立案に結びつく具体的な知見を得ることが期待できます。

分析アプローチ

目的を達成するために、具体的に以下の6ステップで業務を進めました。

  1. OA開設と認証導線の確認
  2. 事業部へのヒアリング
  3. カスタマージャーニーマップの作成
  4. 仮説の設定
  5. 分析要件定義書の作成
  6. 分析結果から得られた知見を基に、施策提案の実施

1. OA開設と認証導線の確認

まず、OAの認証申請に関する理解を深めるため、実際にOAの開設から認証申請までの一連の操作を体験しました。これにより、ユーザー視点での認証申請フローを把握することができました。下の図は、認証申請フローのUIとその体験をステップごとにまとめたものです。

ステップ参考画像詳細
1公式アカウントの管理画面LP公式アカウントのホーム画面に移動します。
2管理画面LP上の認証リクエスト要素ホーム画面の右下にある「認証アカウントでもっと便利に」にある「認証をリクエスト」をクリックします。
3認証のLP認証申請の流れと、認証済アカウントになることのメリットの説明を受けます。
下までスクロールし、認証申請を開始します。
4認証申請の入力フォーム以下の情報を入力します。
- アカウント情報
- 業種・申込タイプ
- 店舗・施設情報
- 会社情報
- 申込者情報
- 申請者アンケート
5入力フォーム確認申請内容の確認画面に移ります。
6認証申請完了申請完了の画面に移ります。

ここでは詳細を割愛しますが、OAの認証申請の導線は全部で11種類存在します。それぞれの導線について、認証申請のステップを確認しました。

2.事業部へのヒアリング

分析を進めるにあたり、事業担当者が持つ知見を収集するためにヒアリングを実施しました。ヒアリングで行った質問とその回答を以下にまとめました。

質問回答
(1)認証申請を離脱する原因として想定している仮説は何か・申請フォームの入力項目が多いという手間による離脱(最大の離脱要因と考えられている)
・入力エラー(文字数制限や使用不可文字)や入力項目のわかりにくさによる離脱
・企業ホームページのURLなど、入力必須項目を用意できない場合の離脱
(2)認証申請が特に多いと考えられる導線はどこか・アカウント開設直後
(3)ユーザーが認証を行う多くの理由は何か・以下の3つが申請理由として多いと考えられている:
 - ブランディング目的
 - なんとなく
 - 知らないうちに申請

ヒアリングを通じて、これまで明確に把握できていなかった離脱要因を具体的にイメージできるようになりました。特に、申請フォームの入力項目の多さや入力エラーによるストレス、必須項目の準備不足といった要素が、ユーザーの離脱に直結していることがわかりました。また、認証申請はアカウント開設直後に集中する傾向があることや、申請理由が「ブランディング目的」や「なんとなく」など多様である点も把握できました。これらの知見を踏まえることで、分析結果の傾向を事前に想定しながらデータ分析を進めることができ、さらに、アカウント開設直後の行動に注目するなど、仮説設定の方向性を明確にする上で有用な示唆を得ることができました。

3.カスタマージャーニーマップの作成

次に、OAオーナーがOA開設から申請、承認に至るまでの行動を「カスタマージャーニー」として整理しました。カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを認知してから実際に利用・購入するまでの一連の行動や心理の流れを示すものです。カスタマージャーニーを作成し、それを分析することで、サービスに対する理解が促進され、ボトルネックが明確になります。本分析では、OA開設から認証申請、承認までのカスタマージャーニーは、以下の5つのステップから構成されると仮定しました。

カスタマージャーニー
OA認証におけるカスタマージャーニー

さらに、「カスタマージャーニーマップ」を作成し、各段階でユーザーがどのようなタッチポイントに触れ、どのような行動を取るかをまとめました。

カスタマージャーニーマップ

4. 仮説の設定

カスタマージャーニーマップを作成した上で、「OA開設直後に表示される認証機能紹介ページの内容が、OAオーナーにとって十分に魅力的でないことが、その認証導線における『認知→理解』の遷移率を低下させている」という仮説を立てました。ここでいう「魅力的でない」とは、認証済OAになることで得られる機能(ポスター・ノベルティ)がユーザーにとって十分な魅力を感じられない状態を指します。この仮説に至った経緯は、すべてのOAがポスターやノベルティを必要としているわけではないと考えたためです。具体的には、店舗を構えるOAにとっては魅力的な施策である一方で、店舗を持たないOAにとっては必ずしも魅力的ではない可能性があると考えました。

OA開設直後の認証機能紹介ページ
OA開設直後の認証機能の紹介ページ

そのため、各導線(ポスター・ノベルティ・友だち追加広告・メンバーシップ)における遷移率を比較し、どの訴求が最も効果的であるかを検証することとしました。また、その他の導線についても遷移率を分析し、改善の方向性を検討しました。

5. 分析要件定義書の作成

実質10日間という限られたインターン期間の中で効率的に分析を進めるため、分析期間・対象・指標・内容を明確に定義した分析要件定義書を事前に作成しました。

項目内容
分析期間2025年7月1日〜9月30日
分析対象認証妥当な未認証OAのうち、PCから管理画面を操作したOA
分析指標OA開設から承認までの各ステップにおけるページビュー(PV)およびクリックログ
・各タッチポイントへのページビューまたはクリックをもって、カスタマージャーニーの各ステップへの接触とみなしています
分析内容各導線別(開設直後、やることリスト、ポスター、ノベルティ、友だち追加広告、メンバーシップ)の5ステップ(認知 → 理解 → 申請入力 → 申請完了 → 承認)の遷移率を算出し比較分析

結果

分析要件定義書をもとに、主要導線ごとにカスタマージャーニーの各ステップへの遷移率を集計しました。そして、得られた結果をもとに、以下に仮説の検証およびその他の知見をまとめました。仮説に対応する結果の箇所は緑色の枠線で示し、それ以外の課題に関する箇所は青色の枠線で示しています。

認証申請経路ごとの遷移率
認証導線別の遷移率

仮説に対する検証結果

分析の結果、ノベルティおよびポスター導線は、友だち追加広告と比較して「理解→申請」区間を除くすべての区間において、高い遷移率が得られました。一方で、メンバーシップ導線に関しては、「認知→理解」区間の遷移率が著しく低く、結果に対して解釈が困難でした。これらの結果から、ノベルティやポスターをOA開設直後の画面で訴求することは、認証申請の促進に有効であると解釈されます。したがって、開設直後の画面構成は現状のものが適切であると判断されます。

ノベルティ、ポスター、友だち追加広告、メンバーシップの遷移率
ノベルティ・ポスター・友だち追加広告・メンバーシップの遷移率
ノベルティ
ノベルティ
ポスター
ポスター
友だち追加広告
友だち追加広告
メンバーシップ
メンバーシップ

分析によってわかったその他の課題

1:開設直後導線における遷移率の課題

OA開設直後の導線では、「認知→理解」および「申請完了→申請承認」の遷移率が、その導線における他の区間と比べて低い傾向が見られました。開設直後導線は、OAを開設したオーナーの目に必ず触れる導線であり、OAオーナーが最初に必ずOA認証の存在を認知する画面と言えます。「認知→理解」が低い要因として、「銀行・保険・金融」カテゴリーのOAではPV数が多い一方で、特に遷移率が低いことが考えられます。これは、同カテゴリーOAの中に、詐欺目的や不正利用を意図したユーザーが含まれており、自身の申請が認証されないことを理解しているため、次のステップである認証申請の流れとポイントのホームページに進まない可能性があると考えられます。一方で、「申請完了→申請承認」が低い理由としては、スパム申請による影響が大きいからだと考えられます。スパム申請の場合、入力内容に不備がある、または意図的に虚偽情報を含んでいるため、審査段階で承認されにくく、結果として遷移率が低くなっていると考えられます。したがって、「認知→理解」の遷移率に関しては、金融系OAの内容や登録情報を精査し、算出された数値の妥当性を確認するとともに、該当OAを分析対象から除外できるような条件を明らかにする必要があります。

開設直後導線における遷移率
開設直後導線における遷移率
OAカテゴリーごとのOA開設数の分布
OAカテゴリーごとのOA開設数の分布

2:やることリスト導線における遷移率の課題

「やることリスト1・2」導線では、「申請完了→申請承認」の遷移率が、ポスターやノベルティ導線のそれと比較して低い結果となりました。やることリストはOAの管理画面上に配置されている、OAの新規オーナー向けに友だちを増やすためにやるべきことを紹介しているコンテンツです。今回の結果から、OAオーナーが「やることリスト」を惰性的に実施しており、申請自体は完了するものの、認証申請時に「所在登録」が未対応のままとなっているケースが多い可能性があります。したがって、不備を減らすために、認証申請の流れとポイントのホームページ上で「所在登録が必須であること」および「正確な所在情報が承認条件であること」を明確に訴求することが有効と考えられます。

やることリストの申請承認率
やることリスト1・やることリスト2における「申請完了→申請承認」の遷移率
やることリスト1
やることリスト1
やることリスト2
やることリスト2

3:ノベルティ・ポスター・友だち追加広告導線における認知段階の課題

やることリストと限定機能の認知から理解への遷移率
やることリスト1・やることリスト2・ノベルティ・ポスター・友だち追加広告の「認知→理解」の遷移率

ノベルティ、ポスター、友だち追加広告における「認知→理解」の遷移率は、「やることリスト」経由のそれに比べて低い結果となりました。これらの導線は、認証OAになることで利用することができる限定機能です。このことから、これらの機能を利用するOAオーナーは、限定機能に興味を持って画面にアクセスしたが「認証が必要であること」を十分に認知していない、または「認証取得に手間をかけたくない」層であると考えられます。したがって、新規OA開設時に、「ポスターや友だち追加広告の利用には認証が必要である」ことを明示し、これらの機能を活用するメリットとともに訴求することが効果的です。

インターンを終えての感想

このたびの4週間のインターンシップにおいて、お忙しい中私の分析をサポートしてくださった皆さまに心より感謝申し上げます。特にメンターの安藤さんには、多くのご指導とご支援をいただきました。短い期間の中で無事にインターンを終えることができたのは、安藤さんのお力添えのおかげだと感じております。また、OAディビジョン(通称OA DSチーム)の皆さま、特にリーダーである松田さんには、OA DSチームの業務や会社全体についてさまざまなことを教えていただき、大変勉強になりました。さらに、他の皆さまからも分析に関して多くのアドバイスをいただき、心より感謝申し上げます。事業部の皆さま、特にOA認証の担当者であるソヨンさんからは、OAに関する事業部目線での知見を共有していただき、分析を進める上で大変参考になりました。また、採用担当の岡田さんには、インターン開始前から選考の日程調整やオンボーディング対応など、さまざまなサポートをしていただきました。誠にありがとうございました。多くの方々のご支援のおかげで、無事にインターンを終えることができました。改めて厚く御礼申し上げます。このインターンでは、大学ではなかなか学ぶことのできない、実務的なデータサイエンスの重要な側面を学ぶことができました。
特に、

  • 事業に対するドメイン知識の習得の重要性

  • 事業部との円滑なコミュニケーションを通じた情報収集

  • 分析前に要件を整理し、出戻りを減らすプロセス設計

  • レポート作成や発表の工夫

といった点を実践的に学ぶことができました。また、技術的な面でも、SQLを用いたデータ抽出や大規模ログデータの取り扱いなど、貴重な経験を積むことができました。今後は、このインターンで学んだ知識や経験を研究活動や今後の分析業務に活かし、より一層成長できるよう学び続けてまいります。毎日新しい発見があり、とても充実した4週間でした。このインターンに参加できたことを心からうれしく思います。短い期間ではありましたが、本当にありがとうございました。

メンターからの一言

本インターンにて、林さんのメンターをさせていただきました安藤です。林さんには、DSとして課題整理から分析要件の定義、そして分析結果をレポートにまとめて、事業側に共有・打ち手を提案するところまで一気通貫で行ってもらいました。インターン期間は4週間でしたが、事前知識のインプットや環境構築、インターンのブログ記事を作成すること加味すると、課題に着手できた営業日は10日しかなく、非常にシビアなスケジュールでした。弊社のDSでも難しいスケジュールであり、正直、私も達成できるか不安でしたが、林さんの能力が高く、また熱意を持って課題に取り組んでいただけたお陰で無事にインターンを終えることができました。事業側に分析結果を共有する際には、30名ほどの関係者が参加し、みんな興味津々に林さんの報告を聞き、闊達に議論が行われており、非常に良いアウトプットを創出することができたと感じています。これからも、林さんは弊社での経験を活かして、様々な場で活躍されることでしょう。また、どこかで一緒にお仕事できることを期待しております。