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iOSDC Japan 2025 特別企画 「AI時代、iOSアプリエンジニアがこれから生き残るには」

2025年9月19日(金)から21日(日)にかけて開催される iOSDC Japan 2025 にて、LINEヤフー株式会社はプラチナスポンサーを務めます。

このたび、iOSDC Japan 2025のパンフレット内・スポンサー紹介ページにて、弊社エンジニアのgiginet(@giginet)とまつじ(@mtj_j)による対談記事を掲載いたしました。

本記事は iOSDC Japan 2025 のパンフレットに掲載された対談記事を、Developer Relations部のaikawaがブログ向けに紹介するものです。パンフレットに掲載した対談の全文を公開いたします。ぜひご覧ください。

AI時代、iOSアプリエンジニアがこれから生き残るには

── 今年は、LINEヤフー Tech Blogとの連動企画として、お二人の対談記事を掲載することになりました。

giginet 今年は、漫画じゃなく対談記事なんですね。よろしくお願いします。

まつじ よろしくお願いします。今ホットな話題ですからね。

── 早速ですが、AIが登場する以前は、iOSアプリエンジニアにとってどのような生存戦略があったのでしょうか?

giginet 王道ではありますが、自分のプレゼンスを高めていくことがやはり大切だと思います。プレゼンスを高めるには、特定の領域で「この人」と認知されるのが一番の近道です。まずは自分が好きな領域を見つけて、そこを深掘りしていく。そのうえで得た知見を発信し、「visionOSといえばこの人」「CarPlayならこの人」といった形で他の人から覚えてもらえるようになるのが理想です。その発信手段の中でも、登壇は特に効果的だと思っています。会社のサポートを受けながら、企業のアピールと自己ブランディングを同時にできるのが大きな魅力ですね。それに、日頃からプレゼンスを意識しておくことで、新しいキャリアの選択肢が広がると感じています。

まつじ LINEに新入社員で入社して以来、まだ転職を経験していないので、生存戦略については正直、まだ自分の中で明確な答えを持てていません。ただ、社内で「iOSに詳しい人」としてのポジションを確保するために、毎年WWDCの時期には、新しく発表される情報を欠かさずキャッチアップするようにしています。giginetさんは「技術ができる」ことを前提にプレゼンスを高める話をされていましたが、僕はまず、その「技術力」をしっかり身につけることが大事だと考えています。

── キャリアの初期段階にいるエンジニアが、iOSの現場で活躍していくには、どんなことが大切なんでしょうか?

giginet 「SNSのタイムラインを常に監視しましょう」ちょっと冗談っぽいですが、実はあながち間違ってないと思っていて。というのも、情報収集力というよりは、意識しなくても「なんとなく知っている」状態でいられることって、けっこう大事な力なんじゃないかと思うんです。まず技術トレンドを知らないと、そもそもそこから広がっていかないですしね。もちろん、余暇の時間まで使って積極的に情報収集しろとは、業務としてはなかなか言いづらいですが、それでも仕事というより趣味の延長として、楽しみながらキャッチアップできると理想的だなと感じています。

まつじ 僕も情報収集はすごく大切だと感じています。「情報収集」と聞くと構えてしまうかもしれませんが、iOSに関して言えば、そこまで大変なことではないと思っています。というのもiOSの大きなアップデートは基本的にWWDCのタイミング、つまり年に1回だからです。たとえば、生成AIやフロントエンドのような分野は、特定の企業が管理しているわけではなく変化が激しいので、常にアンテナを張っていないとキャッチアップが難しいですよね。でもiOSの場合、iOSアプリエンジニアとしての最低限の基礎があれば、WWDCの1週間をしっかり追っておけば、iOSアプリエンジニアとして「次の1年を生きていけるだけの知識」は得られると僕は思っています。

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「WWDCで次の1年を生きる知識が得られる」と語るまつじさん

── 最近はiOSでもAIを活用したアプリ開発が増えてきましたよね。今後さらにAIの利活用が進むと、iOSアプリ開発にはどんな影響があると思いますか?

giginet iOSアプリ開発の領域において、生成AIの利活用が進むことは、個人的に大きな追い風だと感じています。日頃からmacOSアプリやiOSアプリを使っていても、ネイティブアプリ開発の知識を習得するハードルが高く、アイデアがあっても実際にアプリを開発するまで至らなかったという方は少なくないのではないでしょうか。しかし近年、生成AIの登場により、ネイティブアプリの専門知識がなくても、生成AIに指示を出すだけでアプリを開発できる時代が到来しています。その結果、ネイティブ以外の領域のエンジニアはもちろん、異業種の方々もアプリ開発に参入しやすくなってきました。こうした参入障壁の低下は、開発者人口の増加につながり、結果としてiOSプラットフォーム全体の活性化にも寄与していくと期待しています。

まつじ 生成AIを活用することで、とりあえず生成されたコードをビルドしてアプリを動かす、という体験が非常に容易になってきました。これにより、アイデアさえあればネイティブアプリとして形にすることが格段に簡単になり、今後はさらにそのハードルが下がっていくと感じています。ただし、参入障壁が下がったからといって、iOSアプリエンジニアとして乗り越えるべきハードルが消えたわけではありません。むしろ、今後はそれらのハードルが新たな形で浮き彫りになっていくのではないかと考えています。たとえば、現在のシニアクラスのエンジニアは、AIを活用することでこれまで以上のスピードで成長できる可能性があります。一方で、ジュニアクラスのエンジニアも、一定のレベルまではAIのサポートを受けて急速に成長することができるでしょう。しかし問題は、ジュニアクラスがシニアクラスへとステップアップする際に求められる「知識」や「経験」の壁は、むしろ以前よりも高くなるのではないかという点です。AIのサポートによって基礎の理解や実装の機会が先延ばしにされ、giginetさんが言及していた「ネイティブアプリ開発知識の習得の難しさ」は、どこかのタイミングで避けられずに直面することになると思います。もちろん、シニアエンジニアという役割やそのあり方自体も、今後の技術環境の変化に応じて変わっていく可能性があります。そのため、現時点での見立てが未来においてどのように変化するかは未知数ですが、少なくとも今は、生成AIによって生成されたものの本質を見極める目が、エンジニアにはより一層求められていると感じます。

giginet そうですね。今後のiOSアプリ開発においては、GUIアプリケーションの設計全般やUX、デザイン、ユーザビリティといった「普遍的な知識」が、これまで以上に重要になると感じています。生成AIの登場により、細かな実装テクニックや特定ツールの操作に関する知識はAIが補完してくれるようになりつつあります。その結果、iOSアプリ開発の専門的なスキルセットがなくても、Webフロントエンドや他プラットフォームでのGUIアプリケーション開発経験があれば、iOS開発への参入が可能となる世界が近づいてきています。こうした環境の変化によって、エンジニアとしてまず身につけるべきスキルの重心も変化しており、プラットフォーム非依存で再利用可能な設計力やUXへの感度といった、「応用が利く本質的な知識」にフォーカスすべき時代が訪れていると感じます。また、ツールやIDEの使い方、たとえばXcodeの操作方法などは、今後AIが対話的に教えてくれるようになるでしょう。そうなったときに差がつくのは、基盤的な知識の有無です。たとえば「コンパイラの仕組みを理解している」といった、より深いレイヤーの理解がある人は、生成AIの出力を正しく評価し、文脈に応じた最適解を導き出す能力が高いと考えられます。つまり、今後のエンジニアには「普遍的な知識」を軸に据えながら、生成AIを活用して柔軟に対応するスキルが求められるようになっていくのではないでしょうか。こうした知識や視座を持っておくことは、シニアエンジニアへのステップアップを図る上でも、今後ますます重要になっていくと考えています。

まつじ 「普遍的な知識」に近いですが、物事の正しさを判断する力や、設計の良し悪しを見極める“審美眼”が求められていくと感じています。たとえば、AIがUIのコードをすべて書いたとしても、それをレビューする際に「これはiOSのユーザーインターフェースとして適切か」「このインタラクションは本当にユーザーにとって良い体験になっているか」といった観点を持って判断を下せる人間でなければ、エンジニアとしてのキャリア形成が今後難しくなっていくのではないかと考えています。極端に言えば、そうした力がなければ、AIをただ操作するだけの人間になってしまう。生成AIが生成したアウトプットに対して、「これが正しい」と判断できることこそが、これからのエンジニアに求められる人間の価値だと思っています。

giginet そうですね。コードレビューの際に、違和感のある実装や設計にふと気づくいわゆる“コードスメル”を嗅ぎ取るような感覚に近いと思います。「この設計、ちょっと危なそうだな」とか、「このUIの構造、長期的に見ると破綻しそうだな」といった直感的な判断力は、今後ますます重要になっていくはずです。そうした感覚は一朝一夕で身につくものではなく、実践や経験を通じてしか磨かれない部分でもあります。そのためにも、特定の領域に対して強い興味を持ち、“好き”になることが大事だと思っています。たとえば、まつじさんであればApple製品が大好きだからこそ、Appleの話題を日頃から自然とキャッチアップしているし、Appleの設計原則についても判断できる力が身についている。これはまさに、好きだからこそ得られる審美眼の一例だと思います。特定の分野に対して深く興味を持ち、自然とアンテナを張り続けること。一見当たり前に聞こえるかもしれませんが、そうした姿勢こそが、今後エンジニアとしての価値を築いていくための土台になるのではないでしょうか。

まつじ それで言うと、やること自体は今と大きく変わらないとも思っています。生成AIの活用によって、これまで人手が足りず手が回らなかった領域にも対応できるようになり、いわば“人的リソースで解決できる領域が広がった”という感覚に近いです。つまり、やるべきことの本質は変わらずに存在し続けていて、そこにAIという新しい道具が加わっただけ。だからこそ、変化の中でも自分の軸を持ちつつ、ツールを柔軟に取り入れていくことが求められているのだと思います。組織の中で、アイデアを出したり、プロダクトの方向性を決めたりといった上流の視点を持った業務に関わる人材は、これからも必要とされ続けると思います。しかし一方で、UIの変更を実装したり、コードを書き換えるといったタスクは、今後ますます生成AIによって自動化されやすい領域になっていくでしょう。そうした作業に終始していると、エンジニアとしての立ち位置が不安定になっていくことは避けられないのではないかと思います。

── 昨今当たり前になってきたVibe Codingを通して、審美眼を磨くことはできるのでしょうか?

giginet Vibe Codingのようなスタイルによって、アプリを素早く作ってリリースできるようになり、実践を通じて経験を積みやすくなったと感じています。試行回数を重ねることで自然と学びが得られるため、上達の近道になる可能性が高いと思います。

まつじ 個人的には、悩んだ時間の分だけ、本当の意味で身につくと考えています。たとえば「コードAとBのどちらが良いか」を迷ったとき、その過程で自分なりの理由を言語化し、理解を深めていく。そうした時間こそが、判断力や設計力を養う土台になると思っています。だからこそ、Vibe Codingによってリリースの難易度が下がったことは良い面もある反面、判断のプロセスを飛ばしてしまう危うさもあると感じています。単に「数を打てば当たる」といった感覚でアプリを量産するだけでは、プロダクトときちんと向き合う時間が失われ、結果として学びが浅くなる可能性があるのではないでしょうか。実際、知人のアプリ開発者の中には、文言やUIのわずかな変更に対しても多くの時間をかけて丁寧に向き合っている方がいます。そこには「ただの作業時間」ではなく、自分の中で問いを立て、答えを導き出すための時間がある。そのプロセスが確立されているからこそ、言語化や設計判断の力が磨かれているのだと思います。AIやVibe Codingは、アイデアを素早く形にする手段としては非常に有効です。ですが、アプリエンジニアとしてキャリアやスキルを磨いていきたいのであれば、そのプロセスをAIに任せて省略してしまうのではなく、自分で考え抜く時間を大切にしたほうがいいと感じています。

giginet 悩む時間が大切で、咀嚼するプロセスが必要なのは同意です。ただ、Vibe Codingによって“悩む場所”が変わってきているとも感じています。実装で悩むことが減った分、ユーザビリティや文言など、よりユーザーに近い本質的な部分に時間を使えるようになったのは大きな変化です。そもそも「アプリを出したい」という想いがあってVibe Codingを使っているなら、AIを使っていても試行錯誤する意欲は自然と伴っているはずです。アセンブリから高級言語への移行と同じように、AIによって実装のハードルが下がることで、より本質的な部分に思考を向けられるようになってきていると感じています。

まつじ 悩みのポイントが変わってきているというのは同意で、技術的な悩みは確実に減ってきています。知らなかったAPIも、AIに聞けばすぐに答えが返ってくる。そういった意味での障壁はかなり低くなってきました。ただし、AIが出力したコードが本当に正しいかどうかは、依然として人間が判断する必要があります。特に現時点では、平気でアンチパターンやテスト困難なコードを出してくることもあるので、そのまま鵜呑みにせず、ちゃんと責任を持って判断する力が求められると思っています。将来的には、AIの質がさらに向上し、技術的なことをほとんど考えずに本質的な部分に集中できる時代が来るかもしれません。ですが、現フェーズでは、特にジュニアクラスのエンジニアが「技術を省略する」のは違うと思います。判断するための基礎力がなければ、AIと協働することも難しい。だからこそ、今はちゃんと技術を身につけておくことが、将来の土台になると考えています。

giginet AIが出力するコードに違和感を覚えることはありますが、それはアセンブリから高級言語に切り替わった時代と重なる部分があると感じています。当時アセンブリを直接書いていた人たちから見て、Cのコンパイル結果は無駄が多く、最適化されていないと感じられていた時代があったと思っています。けれど今では、私たちはどんなバイナリが出力されるかを特に気にせず、高級言語で開発している。一部の詳しい人がオプティマイゼーションを調べることはあっても、多くの開発者は抽象化された層での開発に集中しているのが現状です。AIによるコード生成も、そうしたパラダイムシフトの一環として、これから同様の道をたどっていくのではないかと考えています。将来的には、プロンプトを書く人が「どういうコードが出力されているか」を気にせずにものづくりができるようになり、業界全体としてもそうした意識で開発が進む世界が来ると思っています。それはちょうど、いま私たちが「出力されたバイナリ」を気にせずに開発しているのと同じような感覚です。もちろん、それが今すぐに訪れるという話ではありません。現時点では、生成されたコードについてしっかり考える必要がある。「考察が足りない」と一蹴するのは違うと思いますが、品質に責任を持つという意味では、現フェーズでは人間側の理解が必要だと感じています。今の環境では、AIで書いたコードであっても、品質そのものが評価される状況にあります。だからこそ、その環境に適応して、出力されたコードの品質にきちんと向き合えるエンジニアであるべき。ただ将来的には、そうした工程自体が自然とスキップされるような世界もあり得ると考えています。

まつじ 将来的に、今よりもモデルがアップデートされた世界になれば、コードの品質についてもいちいち考えなくてよい時代が来るかもしれないと思っています。でも、正直なところ、現時点ではそこまで信用しきれる状態にはないと感じています。たとえばコンパイラであれば、理論に基づいて静的に動作や構文を検証することができるのに対して、AIはプロンプトの与え方によって出力に揺らぎが出てしまう。今のところ、それを完全にコントロールしたり、保証したりする手段がないというのが実情です。もちろん、いずれそういった不確実さすら気にしなくてよくなる未来は来るかもしれません。ただ、現時点ではそうではない。そして今の環境では、AIであれ人間であれ、出力されたコードの品質が評価される土壌がある。だからこそ、その環境に適応し、コードの内容にきちんと責任を持てるエンジニアである必要があると思っています。仮に将来、コードの品質チェックがスキップされるような世界が来たとしても、今、技術をしっかり学ぶことが無駄になるとは思っていません。たとえばアセンブリに強い人たちが、今でも特定の領域で活躍しているように、技術を深く理解していることは必ず自分の武器になるはずです。だから今は、AI任せにしすぎず、ちゃんとコードと向き合って技術を身につけておくべきタイミングだと思っています。

giginet やっぱり「環境に適応する」という視点が一番近いなと思います。今のエンジニアリング環境においては、何よりも“コードの品質”が強く求められている。だからこそ、その基準に応えられるスキルセットを持っているかどうかが重要になるんですよね。AIを使って書いたとしても、自分でゼロから書いたとしても、結局は出力されたコードの品質で評価される。そういう意味で、今の環境に合わせて“品質を意識できるエンジニア”である必要があるという話だと思っています。

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その時々の環境を読み意識することが大切、と語るgiginetさん

── 「環境に適応する」という話がありましたが、日々進化が速い世の中で、追いついていくために必要なことはありますか?

giginet やっぱり、情報収集に尽きると思います。

まつじ みんなが「MCPだー」「新しいモデルが出たー」って盛り上がってる中で、何がホットなのかをちゃんと追っておく。好き嫌いは置いといて、エンジニアとしてやっていくなら、とりあえず触ってみることが大事だと思ってます。

giginet 「こういうの流行ってるのね〜、はいはい、大体理解したわ〜」みたいな感じですね。

まつじ 普通にClaude CodeやCodexとかも個人で触ってみて、触った結果をgiginetさんとディスカッションしたりっていうのを、普段からよくやってます。実際に試して、「ああ、こういうものね」って分かっていれば、技術の流れに置いてかれることはないと思ってて。一番危険なのは、まったく触らないことですね。

giginet AIに限らずだけど、話題になってるトピックとか、みんなが当たり前に使ってるワードについていけてない時点で、けっこう危ないなとは思います。

まつじ LINEヤフーの話でいうと、僕やgiginetさんのチームには、僕ら以外にもikesyoさん、freddiさんらが在籍しているんですが、昨晩SNSで話題になったようなトピックも、翌朝にはみんな自然と知ってるんですよね。朝会でも、「ああ、あれね」みたいな感じで、話がすっと通じる。そんな情報感度の高い雰囲気で日々会話が進んでいます。

giginet 例えるなら、小学生の頃に「昨日あのテレビ見た?」とか「この番組にあの人出てたよね」って盛り上がる感じで、技術の話題が自然とそんなテンションで展開されてるんですよね。そういう空気に乗っていくには、やっぱり仕事自体を好きじゃないと続かないと思っていて。無理せず自然体で情報を追えることって、そのまま“環境を読む力”にもつながってくるんじゃないかなと思います。

── 生き残るにはまず好きになるということが大切という話でしたが、iOSアプリエンジニアとしてこのAI時代を生き残るにはどうするのが良いでしょうか?

まつじ まずはもう、WWDCを見る!(笑)。結局そこから全部始まるというか、見てるだけで自然とアンテナ張れるんですよね。

giginet 冒頭の話にも戻りますけど、やっぱり“プレゼンスを高める”ってすごく大事だと思うんですよね。たとえば「この分野だったらこの人」っていうポジションを持ってる人は、それだけで強い。うちで言うと、iOSDCやtry! Swiftに登壇してるyamakenさんとかがまさにそうで、SwiftだけでiOSとAndroid両方に対応できるマルチプラットフォームツール“Skip”といえばyamakenさん、っていうイメージを確立できてる。ああいうのが、まさにプレゼンスが高いってことなんだと思います。そういう意味でも、自分の得意領域を作るってすごく大切で、たとえばさっきまつじさんが「WWDCを見る!」って言ってたのも、Apple系プラットフォームに強いまつじさんだからこそ説得力がある。トッププレイヤーの人たちって、みんな何かしら「この人といえばこれ」っていう通り名やキャッチコピーを持ってると思うんですよね。そういう技術的なアイデンティティがあることで、エンジニアとしての差別化にもつながっていく。で、最初から大きな領域を狙う必要はまったくなくて、まずはニッチな分野から始めるのがハードルも低くてやりやすい。そこから徐々にプレゼンスを高めていけば、いずれはビルドシステムとかSwift全般みたいな広い領域まで届く可能性も出てくると思っています。だから、「なんでもいいからまずは好きな技術を一つ決めて、そこに注力してみる」っていうアプローチは、すごく現実的だし始めやすいと思います。

まつじ ほんと、なんでもいいと思います。たとえばアクセシビリティに詳しい人とかが増えてくると、すごく面白いですよね。あのあたりって、業界的にもまだまだ空いてる気がしますし。

giginet そうそう、そういうのなんですよね。たとえばVoiceOverをずっと深掘りして発信してると、「あの人いつもVoiceOverの話してるな」って印象がついてくる。そうなると、活動の場をもっと広げやすくなるし、呼ばれる場面も増えてくると思います。

まつじ AIに詳しい人であれば、さっきの通り名みたいなポジションは全然取れると思うんですけど、AIを“使って何かする人”っていうだけだと、通り名は取りづらいんじゃないかなと思ってます。

giginet 「AIを使って何かする」だけだと確かに弱いけど、特定のことを深く調べるためにAIを使いこなしてるのであれば、全然アリだと思ってます。僕もビルドシステムについて調べるときに、DeepResearchを使ってAIに掘ってもらったりするんですけど、単に“AIで何か作れます”っていうだけだと、どうしても弱いんですよね。やっぱり、独自性と得意分野、キャッチコピーを持つことが大事。そのためには、まずは好きになることが必要で、誰よりも詳しくなるくらい突き詰める。その上で、AIを活用できるなら活用すればいいっていう順番だと思ってます。

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エンジニアにとってのプレゼンスの意味を改めて見つめ直す2人

── 最後に、日々流行が変化する中、LINEヤフーで働くやりがい・面白さを伺えますか?

giginet 今、LINEのような社会的に広く使われている大規模サービスを開発している立場として、こういった大きな開発組織にいながら、AIなどの最新トレンドにしっかり追いつけているチームって、実はそんなに多くないんじゃないかと思っています。たとえば、最近登場した Liquid Glassに対しても、どう向き合い、どう適応していくかを真剣に考えながら取り組んでいます。そんなチームで、プレイヤーとしてアクティブに動けること自体がすごく面白いですし、動き方次第では、業界のトレンドをつくる側に回ることだってできる。そういう立場にいられるのは、大きなやりがいですね。そして何より、“名実ともに、正しいことをちゃんとやろうとしている”という姿勢を持てているのが、LINEヤフーのいいところだと思っていて。外の開発者から見たときにも、「しっかりやっているチームだよね」と思ってもらえるようにしていきたいです。そういう姿勢を、発信しやすい立場から外に伝えられているというのも、すごくやりがいがあります。

まつじ 規模の大きさというのはやっぱり特別だと思いますね。小さな規模であれば、個人開発でもできることはたくさんあると思うんですが、LINEヤフーのように多数の開発者が在籍していて、企画やデザイナーを含む多くのステークホルダーがいる中で、自分がどう存在感を出してプロダクトに貢献できるか、という動き方はなかなか他では経験できない。国や文化、考え方の違いがある多様な環境の中で開発できること自体も、とても面白いなと感じています。それに加えて、基盤作りにしっかりとフォーカスできる環境があるのも魅力です。普通ならサービス開発と基盤開発を兼業する形になりがちですが、ここでは基盤開発に集中して、自分の仕事をどうスケールさせていくかを突き詰められる。日々の業務で感じた課題をそのままOSS活動に還元できているのも、とても面白いですね。

giginet あとは、iOSDCのパンフレット企画として、今年は社内のiOSアプリエンジニアのアイコンを借りて1ページまるごと埋めたんですが、ああいう企画ができるのも、社内にそれだけ多くのiOSアプリエンジニアの仲間がいるからこそだなと改めて感じました。モバイルアプリエンジニアって、どうしても会社の中では少数派になりがちなんですが、LINEヤフーには、同じ領域で刺激し合える仲間がたくさんいるというのは、本当に大きな魅力だと思っています。

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── giginetさん、まつじさん ありがとうございました!

iOSDC Japan 2025 LINEヤフーブースのご案内

今年もLINEヤフーのブースでは、iOSアプリエンジニアの皆さまに楽しんでいただけるコンテンツをご用意して、皆さまのご来場を心よりお待ちしております。さらに、今回対談にご参加いただいた giginet さん、#さまざまなまつじ さんをはじめ、総勢11名のエンジニアがパンフレット記事や当日のセッションに登壇・寄稿しています。当日は時間帯によって、採択されたエンジニアがブースに立つこともありますので、ぜひお気軽にお声がけください!