LINEヤフー Tech Blog

LINEヤフー株式会社のサービスを支える、技術・開発文化を発信しています。

データマネージャーが事業部のデータガバナンス意識改善に取り組んだお話

はじめに

はじめまして。VOOM事業統括本部 VOOM事業本部 サービスアナリシスチームの吉木と申します。データマネージャー 兼 データスチュワードとして日々の業務に取り組んでいます。

私が所属しているチームは、LINEヤフー株式会社の保有するデータを用いて、ビジネスに対する洞察の提供、施策や機能の効果を測定する分析活動の支援、KPIのモニタリングを行う用途のダッシュボードの提供などを主に行っています。

この記事では、データマネージャーとはどのような役割を担っているのか、そしてLINEヤフー株式会社における事業部メンバーのデータガバナンスに対する認識や意識を高めるために行った取り組みについての事例を紹介します。

私と同じようにデータマネジメントやデータガバナンスに関する活動や業務に取り組まれている方の参考になれば幸いです。

データマネージャーとは

データマネージャーの業務内容についてご存じでしょうか?

データマネージャーという役職は比較的新しく生まれた職種であると私は捉えています。検索サイトで「データマネージャー」と調べても、求めている情報が表示されることはほとんどありません。

データマネージャーの役割を担うメンバーの業務内容は、国や企業、組織、個人によって大きく異なると思います。

私個人が業務を遂行する上で掲げているデータマネージャーの定義と、内容についてご紹介したいと思います。

データマネージャー(Data Manager)は、事業がデータ分析を通じて業績に貢献し、改善を図り、最大の効果を得るために、データの安心・安全かつ確実な使用を可能にする体制や仕組みの策定、構築、運用、見直しを行う役割を果たすことと考えています。この役割を実現するにあたって、以下のデータ関連業務に取り組んでいます。

  • データマネジメント
    • データ品質の確認
    • ETL/ELT処理の構築と維持管理
    • データカタログの管理
    • データに関する問い合わせの窓口
  • データガバナンス
    • データの取り扱いや権限などに関するルールやポリシーの検討、明文化、周知、運用
    • 事業や企画などの分析や施策が定めたルールやポリシーから逸脱していないかを確認
    • データ利活用に関する相談や問い合わせの窓口
  • データスチュワード
    • メタデータの収集と管理
    • 施策や機能追加などによるデータの新規発生、既存データへの影響有無の把握
    • LINEにおいては権限管理ツールにおける役割の一つであり、事業の分析環境における維持管理者
  • データセキュリティ
    • ユーザーのデータやBIへのアクセス権限の制御
    • 社内の他事業やプロジェクトとのデータ参照や利活用に関する調整と権限制御
    • データの個人情報ラベリングの整理

データガバナンス意識改善に取り組もうと考えた経緯

私はデータマネジメント、データスチュワードシップ、データセキュリティは、専門的な知識と技術が必要な分野で、これらの分野には技能を持つメンバーが担当するべきだと思っています。また、データガバナンスにおいても、ルールやポリシーの策定についてはデータの専門家がリードする必要があると私は思います。しかし、組織に所属するメンバーは組織が定めたルールやポリシーに沿ってデータ利活用を行うという活動を実施することは可能ですし、むしろ遂行しなければならないことであると私は考えます。

LINEヤフー株式会社における分析環境データの統治体制としては、全社横断でルールやプラットフォーム、ツール等の管理を行う中央組織と各プロダクト(事業部やプロジェクト)の分権体制が敷かれています。

私が着任した時には、会社全体でデータの利活用に関する防衛的な側面を強化する意向がありました。そして全社を横断してデータの統括を行う中央組織ではガバナンスの策定と改善に多くのリソースを投入していました。

一方で、事業部では新しく策定されたり、変更されたりするデータ利活用のルールやポリシー、ガバナンスに追いつくことが難しく、たとえリソースを投じても、それが文化として根付くのに時間がかかる、または根付きにくい状況でした。

この状況が続けば続くほど、ルールやポリシーに反するデータの利用リスクが増大するのではないかと私は考えました。そこで事業部メンバーが企業や事業のデータを安全に扱えるように、彼らのデータガバナンスに対する意識を改善するためにできることは何かを考え、行動を開始しました。

データガバナンス意識改善のための取り組み

1.全社向けルールやポリシーを自部署のケースに落とし込んだドキュメントを作成

まず、データ統括組織によって策定された、概念的で理解しにくい全社向けのデータ利活用ルールやポリシーを、自部署の具体的なケースに合わせて書き換える作業を行いました。データ統括組織が全社向けのドキュメントを作成する際には、各事業部の具体的な状況に合わせた記述をすることが難しく、結果として概念的な表現を使う傾向にありました。

データ業務に従事する者であれば、概念的な表現も経験に基づいて事例に結びつけて理解できますが、そうでないメンバーにとっては、それが具体的にどう行動に移すべきかまで理解が進んでいない状況でした。

そこで、自部署でのデータ利活用の事例を集め、それをデータ統括組織が策定したルールやポリシーに照らし合わせて、どのケースがルールやポリシーのどの部分に該当するのか、それに基づいてどのような業務フローを行う必要があるのかを明示するドキュメントを作成しました。

この取り組みにより、部署内でのデータ利用が明確になり、私自身も部門でのデータの使われ方を把握できました。

また、作成したドキュメントを使用して説明や指導を行うことで、利用者は類似ケースを参考に業務を進めたり、ドキュメントにないケースでは相談をしてくれたりしました。その結果、個々のメンバーが具体的な例を通じてガバナンスを意識するようになり、ルールやポリシーから逸脱したデータ利用の発見がほとんどなくなりました。

2.権限ロールをチームごとに作り、各ロールのアカウント棚卸を各チームマネージャーに委任する

ちょうど私が着任した時には、LINE株式会社(現LINEヤフー株式会社)では権限管理システムが新しく変更されており、私たちのチーム内でも新システムにおける権限の管理方法についてさまざまな議論が行われていました。その議論の中で、権限ロールをチームごとに作成し、組織体制図と整合性を取る形で管理する提案を行い、この案が最終的に採用されました。

後に、会社の方針で定期的なアカウントの棚卸しが必要になりました。各チームの状況を完全には把握していない私が100人近くいるメンバーのアカウントについて棚卸しをすることは、ミスを犯す可能性が高いと感じました。

権限ロールをチームごとに作成していたことが幸いし、各チームの権限ロールに属するアカウント棚卸をチームマネージャーに委任することを考えました。

この方法により、アカウント棚卸ミスのリスクを排除しました。また、各チームのマネージャーが分析環境の利用に関わる当事者としての意識を持つきっかけにもなったと思います。

各チームマネージャーの負担が増えるとの指摘もあるかもしれませんが、1チーム10人前後という規模を考えると、自チームのメンバーのアカウントを確認するだけなので、負担の増加は最小限だったと思います。

Confluenceを使えば、ページの更新履歴にチェックボックスにチェックしたことも記録されるため、誰がいつどのチェックを行ったかの証跡として役立ちます。そのため、Confluenceに棚卸し用のページを作り、各チームごとにチェックリストを設けて、問題がない場合はチェックを入れてもらう運用を行いました。

こちらがサンプルです。非エンジニアが確認することを考慮して、テクニカルなワードを使わないように心掛け、かつチェック項目自体は数を絞り、シンプルな表現にすることを意識しています。

3.既に行われているデータ利活用も疑問や懸念があればデータ利用者に確認する

当然のこととして述べていますが、実際には当然のことを実行するのは難しいことかもしれません。とくに入社や異動した直後は、「そういうものなのか」と受け入れる傾向があり、疑問を質問をできる方は少ないでしょう。

私も入社した頃はそうでしたが、私の役割は事業部のメンバーがルールやポリシーに反するデータ活用をしてしまうことを防止することでした。そのため、データ統括組織が策定したルールやポリシーを理解するために努力し、事業部での現行のデータ利活用に疑問や懸念が生じた場合は担当者に確認し、必要に応じて業務フローを案内することに力を入れました。

これらの活動が功を奏したのか、最終的には事業部全体でデータ活用に関する疑問が生じた場合、まず私に相談する文化が少しずつ根付いてきました。

本来は、ある業務を1人の担当者に集中させることは、業務における依存度を高めることにつながり、業務の属人化という事態を招くため忌避すべき状態です。

ですが、私が入社した当時、事業部メンバーのデータガバナンスに関する意識やデータガバナンスに基づくデータ利活用の文化がまだ十分に浸透していない状況にありました。この状況下においては、問い合わせ窓口として私に質問や確認などの担当を集中させることによって、データ利用者が質問や確認をすべき相手が明確になり、コミュニケーションがスムーズに取れるようになるメリットを優先させることにしました。

懸念点としては、私の業務量が増加することでしたが、これについては1.で上述したドキュメントを活用しました。データ利用者は用意されたドキュメントによって類似の課題に対しては自己判断ができるようになり、私にはドキュメントを見ても判断が付かないようなデータ利活用に関する質問や相談のみが問い合わせされる状況になりました。これによって私の業務負荷が急激に増加することもなく、データ活用に関する相談窓口も整備できたことで良い環境が整えられました。

データガバナンス意識改善におけるポイント

キーワードは、データ利活用を行うメンバーに、いかに「当事者意識」を持ってもらうかに尽きると思います。

データ関連業務に従事する方々は、常々、このような意識を持っていると思います。事業部メンバーから見ると、分析環境は単なるツールとしてしか認識されておらず、その中には多くのデータや情報が存在し、それによる潜在的なリスクが認識されていないという状況は危険な状態です。

また、社会的にデータを取り巻くルールやポリシーは非常に短いスパンでアップデートが繰り返されています。それに伴う形で社内におけるデータ利活用のルールやポリシーもアップデートが繰り返されていきます。

そのため、過去においては問題のなかった運用であったとしても、現在の規則やポリシーに合わなくなっているケースはどのような組織でも発生する可能性があると私は思います。

データの利用者に「当事者意識」を持ってもらうことは非常に重要です。しかし、それ以上に私たちデータ業務従事者が「当事者意識」を持ち、 データに関連する環境、規則、ポリシー、技術など、さまざまな要素に対して積極的に情報を収集し、アップデートし続けることも非常に重要だと考えています。

おわりに

今回はLINEヤフー株式会社におけるデータマネージャーの役割と業務内容、そして事業部メンバーのデータガバナンス意識向上について述べてきました。

データマネージャーというポジションについては、確立された明確な定義がまだ存在しないと思います。

私自身、現在においては今の守備範囲が適当だと考えています。人・組織などが異なれば狭いとも広すぎるとも言われても不思議ではありません。実際の問題として、1人で多くの役割を担うことは負担が大きく、権限が集中することはリスクを伴うことがあります。

個人的には、記述したデータマネージャーの役割を分割し、複数のメンバーでデータマネージャーチームを構築することが適切であると考えています。

また、データ分析やデータ利活用などの活動が拡大し、時間が経過した現在、データマネジメントやデータガバナンスについて再評価し、より堅実なアプローチを採用する必要性が高まっています。

データガバナンスの意識については、今回述べた方法だけが唯一の方法ではないと認識しており、常により効果的な方法を模索しています。

より安全かつ効果的なデータ利活用を実現し、必要な取り組みを見つけ出し、環境、情報、規則、ポリシーなどをアップデートし続けることは、私たちデータに関わる人々の最も重要なミッションであり、私たちが組織における存在意義と価値を提供する大切な役割だと信じています。